東京高等裁判所 昭和36年(行ナ)95号 判決
本件拒絶査定および本件抗告審判の審決が、本件商標登録出願の拒絶理由に引用した登録第四九五七四三号商標の構成が被告主張のとおりであることは、成立に争のない乙第三号証(該登録商標見本)により明らかである。
原告は、筆記体のlの字の次はOであつて、Vではないと主張し、なるほどそれはOと読めないことはないが、Vとも読め、Silverが銀を意味するきわめて普通の英語であるのに反し、Siloerではほとんど意味をなさないから、わが国における英語知識普及の現状にかんがみるときは、世上多くの人はたゞちにこれをSilverと読むであろうことは、多くいうをまたないところである。(現に、成立に争のない乙第六号証の三の弁理士会発行文字商標集第七巻一八九頁にも右商標をSilverと記載してある。)
そして、成立に争のない甲第三号証(商標公報)によれば、右引用商標は、昭和三〇年五月三〇日に登録出願され、被告主張の物件を指定商品とするものであること、およびその構成中、前示色彩については、着色限定がされていないことを認めることができ、右商標が原告の本件商標の登録出願前である昭和三二年二月六日すでに登録されてあつたことは、原告の明らかに争わないところである。
そこで、本願商標と引用登録商標との類否について判断するのに、両商標はその外観において顕著な差異があり、容易に区別できることはいうまでもない。
原告は、およそ利器尖刃器の商標の類否判断については外観に重きを置き、称呼は外観を尊重した象形呼び名でするという特有の基準が確立している、と主張するが、この点について原告が援用する成立に争のない甲第四号証(特許庁審査第一部商標課長村松寿の工業所有権研修講座における「商標登録の審査基準について」と題する講演筆記)をみても、商標の類否判断については、商品あるいはその需要者との関連において、ある商品には類似の商標となるものが、他の商品では類似とならないことを述べ、その引証として利器尖刃器関係の商標の例を引いたものであるに過ぎず、しかも、成立に争のない乙第四、五号証(各審決書)と対比すれば、右引証自体必ずしも正確なものと言い得ないか、あるいは適切を欠くものであつて、これをもつて利器尖刃器の商標の類否判断につき原告主張のような特有の基準が存在することを認める資料とすることができない。また、証人林恒治郎の証言によつて真正の成立を認め得る甲第六号証(同人の鑑定書)中には、原告の右主張に合致するような意見の記載があるが、前掲各証拠と対比して、右意見はこれを採用することができない。
本願商標は、その構成上Sの字の起筆部およびRの字の頭部からそれぞれ中央に向つて小さく細い線を延ばし、その中間にシルバーと記載してあるので、原告の主張するように「蔓かけシルバー」の称呼観念も生じ得ないではないが、それはSILVERの英語にシルバーの仮名を装飾的に附記したものとみることができ、右商標から最も自然的に生ずる印象が「シルバー」(Silver)である事実は、否定することができないから、本願商標はその構成から「シルバー」(Silver)の称呼観念を生ずるものというべきである。
次に、引用登録商標から生ずる称呼、観念について考える。前認定の右商標の構成中、一見最も人の印象をひくものは、赤、白、藍の三色盾およびその上に載せられた王冠の図形であり、これから、原告の主張する「三色盾」、「王冠盾」、あるいは、中央部の文字の記載と相まつて「王冠盾シルバー」の称呼、観念を生ずること、もちろんである。(もつとも、右商標は着色限定でないこと、前に認定したとおりである。)しかし、右図形の中央にかなり明瞭に記載されているSilverの文字は、単なる模様として看過することができないもので、しかもSの起筆部をことさら人の注目をひくように中に長く延ばして図案化してあり、右文字も亦商標構成の重要部分とみるのが相当である。右商標はこの文字部分からして、Silverの称呼、観念をも生ずるものといわなくてはならない。
ところで、右引用商標の見本原本には、前認定のとおり色彩が附してあるが、それが掲載してある商標公報には、もちろん色彩が附せられておらず、単に右盾の上部及び下部は黒く塗りつぶし、中央帯状部と王冠は薄墨色に残されてあることは、前記乙第三号証および甲第三号証によつて明らかであるが、右登録商標には着色の限定がないから旧商標法上、これにどのような色彩を附けようと権利者の自由であるのみならず、かように登録商標見本の原本とその商標公報の記載とが異なる場合において、他の商標との類否を判断するために基準とすべきものは、前者であることは、言うまでもない。したがつて、前記引用商標の観察は乙第三号証の商標見本の原本にもとづくものであるが、仮に甲第三号証の商標公報の記載にしたがつたとしても、引用商標からSilverの称呼、観念を生ずるとの、前示結論には影響がないといわなければならない。
原告は、利器尖刃器についてSilverとは、銀色あるいは二級品の意味に使われている言葉で、これから独立の称呼は生じない旨主張し、前記甲第六号証および証人林恒治郎の証言中、原告の右主張に符合する部分がないでもないが、本願および引用各商標の構成中、Silverの文字の記載されている態様は、明らかにそのような商品の色彩、等級を示す附記の程度をこえており、ことに本願商標のごとき、右文字こそ商標の本体であると認めざるを得ないから(したがつて、Silverが原告の主張するような意味をもつ普通語であるとすれば、本願商標については、その特別顕著性自体が問題となるであろう。)、これからSilverの称呼が生ずる事実は、いかんともすることができない。
原告は、引用登録商標の商標見本原本と商標公報とは前記のように差異があるのに、本件拒絶理由の通知において、単に公告番号を記載し、それが原本と相違する旨を注意せず、抗告審判の段階においても、これを是正しなかつたことは、出願拒絶の理由は出願人にこれを示して意見書提出の機会を与うべしとする旧商標法第二四条の準用する旧特許法第七二条等の規定に違反する、と主張する。しかし、登録商標の他の商標との類否判断については、その商標見本原本によるべきことは、前記のとおりであり、本件出願の審査手続においては、出願代理人に対し、引用商標の登録番号を明記してその拒絶理由を通知してあること、かつ、公告番号は右通知書中括弧内に記載されてあることが、成立に争のない甲第五号証(拒絶理由通知書)に徴して明らかであるから、右通知の趣旨は、引用商標は登録商標の原本であることを認めるに十分であり、公告番号は参考に附記されているに過ぎないものと解するのが相当である。ことに本件においては、引用商標の原本と商標公報と、そのいずれによろうと、出願商標との類否判断に影響のないこと、前認定に照して明らかであるから、前記拒絶理由通知は、これをもつて出願人の意見を求めるにつき、何ら欠くるところがないものというべく、原告の前記主張はその理由がない。
本件出願商標は、既登録の引用商標と称呼、観念を共通にする類似のものであつて、指定商品も同一または類似ということができるから、旧商標法第二条第一項第九号に該当し、その登録は許すべからざるものというのほかはなく、右出願を拒絶すべきものとした本件審決には、何らの違法の点がない。
〔編註〕 本件に関する商標は左のとおりである。
本件出願商標
<省略>
引用登録商標
(第495743号)
<省略>